貼雑歩録 Ver.2.0

日々の情報から拡散する好奇心と、思考の断片をスクラップブックのように書き留める試み。

須賀敦子『コルシア書店の仲間たち』(白水Uブックス)
イタリア文学の翻訳者として知られている須賀敦子のエッセイ集。良心的な本屋では彼女の死を悼み、須賀敦子コーナーが設けられているようだ。少なくとも、青山ブックセンター紀伊国屋書店ではそうだった。ナタリア・ギンズブルク『ある家族の会話』を翻訳した人、と言うのが一番わかりやすいのかもしれない。本書はイタリアでの希有な留学体験の回想。落ち着いた語り口から想起される周囲の人への暖かい視線。コーナーが出来てる間にまとめて買い揃えてしまうべきかもしれない。ISBN:4560073538

 それぞれの心の中にある書店が微妙に違っているのを、若い私たちは無視して、一途に前進しようとした。その相違が、人間のだれもが、究極においては生きなければならない孤独と隣あわせで、人それぞれ自分自身の孤独を確立しないかぎり、人生は始まらないということを、すくなくとも私は、長いこと理解できないでいた。

 若い日に思い描いたコルシア・デイ・セルヴィ書店を徐々に失う事によって、私たちはすこしずつ、孤独が、かつて私たちを恐れさせたような荒野でないことを知ったように思う。