貼雑歩録 Ver.2.0

日々の情報から拡散する好奇心と、思考の断片をスクラップブックのように書き留める試み。

澁澤龍彦『記憶の遠近法』
全集15巻所収。前半は練金術や宝石にまつわる話。後半は自らの幼少時の想い出を綴った珍しいエッセイ。パイプへのちょっとしたこだわりやデジタル時計への嫌悪などいつもより身の周りの物への趣味丸出しな感じが興味深い。それにしても正常位とは動物の中ではまったく正常ではないってのを初めて知った。体位ではなく態位と表記しているのも面白い。ちなみに辞書(大辞林で調べてみた)には「態位」という表記は載っていない。ちょっとした字の違いに彼なりの美意識が顕われている気がするけれど、どうだろう。ISBN:4309403247

 人間以外の動物には、性交態位は厳密に一種類しかなく、この一種類を逸脱する事は考えられないのであるが、ひとり人間のみ、これを幾通りにも変化させるという、洗練を重ねてきたのである。考えてみると、これは人間と動物とを分かつ、基本的な標識の一つとなり得るかもしれない。

 私は前から興味を抱いてきたのだが、いったい、人間は進化の途上において、いつから背面愛(動物の態位)に束縛されなくなり、自由に対面愛(いわゆる正常位)を楽しむことができるようになったのだろうか。もしかしたら、この背面愛から対面愛へという進化のうちにこそ、エロティシズムの歴史における、コペルニクス的展開と称するにふさわしいものがあるのではないだろうか。

 

「態位について」より p.439(全集)

澁澤龍彦全集15 東西不思議物語、洞窟の偶像、記憶の遠近法、他』
そんなこんなで、全集の15巻を読了。