貼雑歩録 Ver.2.0

日々の情報から拡散する好奇心と、思考の断片をスクラップブックのように書き留める試み。

瀬尾まいこ『幸福な食卓』(講談社)
基本的にとてもいい話で、あたたかいテーマにも共感する。最注目の作家、と評されるのも伊達じゃなくて、内定者がお勧めした理由も良くわかる。終盤ちょっとした悲劇が起きるのだけど、そこで一気に冷めてしまった。作者の都合に合わせて起きる悲劇、一気に作り物めいてしまう。別に、そんなにわかりやすい事件なんて必要ないし、わかりやすい感動もいらない。ほら、ここで泣いてください、と言われているようで。事件を契機にしてテーマの核心へと進むしか思いつかなかったのだとすれば、そこが今後の課題点か?今後の頑張りに期待して見守りたい。でもとりあえず他の作品も読んでみようという気にはなった。編集者によってああいった悲劇を起こす方へ誘導されたのだとしたら、それはなんか作家としては安易。もっと頑張って欲しい。だけど、編集者としてはある意味優秀で、売れるためにはあの悲劇はとても良く機能するだろう。商魂逞しいけど、売れる、売れないを度外視すれば作品の質を貶めた。実際のところどうなのかはわからないけれどね。自分ならどうしただろう。悩む。
絲山秋子『袋小路の男』(講談社)
第30回川端康成文学賞受賞。表紙の写真とかちょっといい感じだったので少し期待して購入。余韻の持たせ方がすごくうまくいと感じた。受賞した表題作よりも「アーリオ・オーリオ」が好き。ひょんなことから始まる叔父と姪の手紙のやりとり。ちょっといい話。それにしても期待の新鋭二人とも講談社か。文芸はホント強いな、講談社は。

 

幸福な食卓 袋小路の男