- 大竹伸朗『既にそこにあるもの』(ちくま文庫)
- 恥ずかしながら大竹伸朗の事は知らなかった。読んでみたらめちゃくちゃ文才あってビックリしました。美術家の書いた文章って面白いな。美術家や写真家ってやっぱ「眼の人」な訳で、そういう人達が何をどう見ているのかってもの凄い新鮮。しかもこの人は文才あるから、長らく入手困難だった本書を文庫化したちくまは本当に偉い!
瞬間的なまたたきを一生分合計すると一体どれくらいの長さになるのだろう。眼球にはレンズが組み込まれているせいか、僕はまたたき行為というとカメラのシャッターが頭に浮かぶ。日常の中で見た光景は極限に薄い膜としてまぶたの裏側に堆積していくのかもしれない。その薄い薄いフィルム状の膜が夢の材料になるのか、そんなバカげた事を考えていたのは印刷機が鳴り響く印刷所の中であった。
『「ヤレ」の色』より P.263