貼雑歩録 Ver.2.0

日々の情報から拡散する好奇心と、思考の断片をスクラップブックのように書き留める試み。

内田百間内田百間集成15 蜻蛉玉』(ちくま文庫)
百間特有の飄々としたヘリクツ等が楽しめるエッセイ集。表題作の冒頭いきなり「私と云うのは、文章上の私です。筆者自身の事ではありません。」との一文があるあたりも百間の面目躍如たるものがある。芸術院会員に選出された際に「いやだから、いやだよ」と断った話の舞台裏等面白い。

多田さん、文部省へ行って僕の芸術院新会員をことわって来て下さい。

困りましたな。何と云ってことわるのですか。

(中略)

なぜお引き受けにならないのです。

なぜと云えば、いやだから。

なぜいやか、と云えば気が進まないから。

なぜ気が進まないかと云えば、いやだから。

多田さん、言う事はこの範囲にとどめ、これから外へそれてはいけないよ。

(中略)

後で新聞雑誌等に出たところでは、右の「気が進まないから」は省かれて、簡単に「いやだから、いやだよ」と短縮されていた。

 

「柵の外」より

我々は言葉で表現したように考えているのであり、「思った事がうまく表現できない」と言う事はありえない。うまく言えないのは、うまく考えられていないからだ。

 

解説より

 

蜻蛉玉―内田百けん集成〈15〉 (ちくま文庫)