- 内田百間『内田百間集成15 蜻蛉玉』(ちくま文庫)
- 百間特有の飄々としたヘリクツ等が楽しめるエッセイ集。表題作の冒頭いきなり「私と云うのは、文章上の私です。筆者自身の事ではありません。」との一文があるあたりも百間の面目躍如たるものがある。芸術院会員に選出された際に「いやだから、いやだよ」と断った話の舞台裏等面白い。
多田さん、文部省へ行って僕の芸術院新会員をことわって来て下さい。
困りましたな。何と云ってことわるのですか。
(中略)
なぜお引き受けにならないのです。
なぜと云えば、いやだから。
なぜいやか、と云えば気が進まないから。
なぜ気が進まないかと云えば、いやだから。
多田さん、言う事はこの範囲にとどめ、これから外へそれてはいけないよ。
(中略)
後で新聞雑誌等に出たところでは、右の「気が進まないから」は省かれて、簡単に「いやだから、いやだよ」と短縮されていた。
「柵の外」より
我々は言葉で表現したように考えているのであり、「思った事がうまく表現できない」と言う事はありえない。うまく言えないのは、うまく考えられていないからだ。
解説より