貼雑歩録 Ver.2.0

日々の情報から拡散する好奇心と、思考の断片をスクラップブックのように書き留める試み。

鈴木漠『現代詩文庫162 鈴木漠詩集』(思潮社
初期はちょっと頭でっかちの感があり、やっぱり現代の詩人てこんな感じかと思いきや、どっこい良い感じ。『抽象』『海幸』『色彩論』などの詩集を買ってみるのもありかもしれない。ISBN:4783709335

言葉はまず

音としておとずれるだろう

波の音

鳥たちのはばたき

それから徐ろに言葉の中の

意味をめざめさせるのだ

 

まだ語られない言葉は

葉末にとどまる雨滴のようだ

あるいは窯から運び出されて

大気に触れたばかりの白磁の壺の

おのずから発する澄んだ声

燃えさかる火と土の記憶が

そのまま秋の言葉となる

 

言葉はなお意味として

立ち上がる必要があるだろうか

人は誰しもその胸の水底に

Uの字に似た音叉を抱いている

言葉となる前の

波の形を探っている

 

詩集『海幸』より「音叉」全文