貼雑歩録 Ver.2.0

日々の情報から拡散する好奇心と、思考の断片をスクラップブックのように書き留める試み。

松原治『三つの出会い』(日本経済新聞社
紀伊国屋会長が日経新聞の人気コラム「私の履歴書」に連載した物をまとめた上に対談を3本加えて出版したもの。この人は書店業を情報産業と捉えた所が面白い。本を売るだけではなくて、米国の科学技術情報など様々なデータベース(論文など)の日本での販売総代理店だったりする。後はやはり大学をしっかり抑えてるのも強い。今日の発表によると店売売上げは681億2392万円(同1.35%減)、営業総本部売上げは447億1932万円(同0.11%増)という構成。ちなみにこの人は再版制擁護論者。しかしその動機は町の中小書店を守りたいから、という思いが強いみたい。再版制無くなってもうちは大丈夫だけど確実に零細書店が駆逐される、と。それでも良いじゃん、と思いがちな所だけれども、多分この人は町の本屋さんってものをとても大切だと考えている気がした。本を読むのって習慣による所も非常に大きく、紀伊国屋では小さい子供向けの読み聞かせの会とかに力を入れていたりする訳。活字文化を支えるのにはそういう地道な活動も大切だと考えていて、そんな中、町の本屋さんってのはこどもの頃に最初に触れる本屋さんな訳で。ただもちろん全面的擁護論者ではなくて怒る部分は怒ってる。要するに問題は再版制と委託制がべったりくっついている所にある、と。雑誌なんか買切りでいいじゃないか、と。出版不況と騒がれているけど刊行点数はうなぎ上り、書店側としては売れない本が取次から勝手に送りつけられて来て、売れないからじゃあ返品と言う事になると返品の手間もコストも書店持ち。さらに返品された雑誌などは業者にお金を払って断裁処理。紙資源の無駄、ひいては森林資源の無駄使いここに極まれり。そこで今一番大切なのは返品率を下げることだと主張。30~40%の返品は当たり前で返品率50%なんてものもあると言うのはかなり異常な事態。本は需要の見通しを立てる事が難しい商品ではあるけれども、書店のIT化(POSシステムの活用)などをすれば比較的容易に返本率は下げられるはず。実際紀伊国屋はお店でいつ何が売れたかという情報を管理していて出版社に提供している。そういう情報を基に需給の関係を見直せ、という思いから始まったサービスなのだけれど、出版社としては返品されることがわかっていても刷りたい事情がある。特に雑誌がそうなのだけれど、部数が広告料と密接に関わってくるから。多く刷れば、返本などの事を考えても広告ががっぽり入ってくる事の方が儲かる、ってなわけ。根が深いよ、この問題は。後最近取次が書店を持つケースが増えているらしい。ビックリしたのは池袋のリブロは日販に買収されていたらしい。うーん、いつのまに。もうリブロでは買っていないから別に良いんだけども。とりあえず、ちょろっと業界の様子が伺える本だった。

 

三つの出会い―私の履歴書