- ジョン・ミルトン『失楽園 下』(岩波書店)
- 人間を堕落させる事でサタンに依る神への復讐は成功。蛇にはサタンが乗り移っていたり、イヴへの愛からアダムも自ら木の実を食べる決意をしたり、細かい所だけど解釈が面白い。最大の特徴はアダムとイヴは楽園を追放される訳だけど、絶望の内に悲嘆にくれて出ていくかと言うとそうではないこと。天使ミカエルによって旧約聖書、新約聖書に当たる部分の自らの子孫の運命を語られ、自らの罪に怖れおののきながらも、最後にはキリストによる贖罪がなされる事を知り、かすかな希望を持って楽園を出ていくという解釈が感動的。
私にはもはや躊躇はありません。あなたと一緒なら、ここを出ることはここに留まることです。あなたと別れてここに留まることは、心ならずもここを出てゆくことと同じです。あなたは私の身勝手な罪のためにここを追放されるのです、――今の私には、あなたこそ、大空の下におけるすべてであり、すべての場所なのです。私のせいですべてが失われたとはいえ、私から生まれるあの約束された御子が、すべてを回復し給うという、身に余る恩寵を示された今、私はその慰めを心にしっかりと抱いて、ここを立ち去りたいのです」我々人類の母なるイ―ヴはこのように話した。聞いていたアダムは心から喜んだ。
「第12巻:615行~625行」より
- 阿部和重『グランド・フィナーレ』(講談社)
- 神街サーガとして過去の作品とも微妙につながってきた。『ニッポニアニッポン』とそう繋がるのか、みたいな。勿忘草の挿話が印象的。確かに視点を変えればそうだよなぁ、と。芥川賞受賞は妥当だろう。
死にゆく者から託された願いは、それを受け止めた者に対して絶対的な命令のごとき強制力を及ぼしてしまう。
「グランド・フィナーレ」より P.123